あらすじ

海に囲まれた静かな小島。この島では“消滅”が起こる。香水や鳥、帽子など、様々なものが、“消滅”していった。 “消滅”が起こると、島民は身の周りからその痕跡を消去し始める。 同時にそれにまつわる記憶も減退していく。

『わたし』は、この島に暮らす小説家。家で『おじいさん』とお茶を飲みながら話をするのが日課という静かな毎日。 おじいさんは、若者の容姿をしているが、わたしのことを幼い時から見守り世話をし続けている存在。 わたしの母は秘密警察に連行され死んだ。鳥の研究家だった父も亡くなり、おじいさんだけが心安らぐ存在だ。

この島にも、少数ではあるが記憶が“消滅”しない人、記憶保持者がいる。彼らはそのことを隠して生活しているが、謎の組織である秘密警察は手を尽くし、彼らを見つけて連行する。島民が恐れる記憶狩りだ。

記憶狩りが激化する中、わたしの担当編集者R氏から、記憶保持者であることを告白される。 もう二度と、大切な人を秘密警察に奪われたくないと思うわたしは、R氏を守るため、自宅の地下室に匿うことを決意する。 わたしの身を案じるおじいさんはR氏の存在を危険視しながらも、わたしのためR氏を匿うサポートをする。 一方の秘密警察たちも、自分たちの行為の真相は知らず、実際は組織の中で翻弄されるただの人間である。

ナチスからユダヤ人を匿うような緊張の日々の中、わたしとR氏の心の通い合いは深くなっていく。 R氏はわたしに、人間の生活に寄り添っていた些細なものたちがいかに愛おしいか、本来の豊かな記憶の世界へ引き戻そうとする。が、おじいさんにとってその行為は、わたしを秘密警察の記憶狩り対象者にすることに等しい。 記憶を失うことでわたしが『わたし』ではなくなってしまうことを防ごうとするR氏。わたしを危険にさらさず、島の世界の道理に順応して生きることで彼女を守りたいというおじいさん。考え方は全く違うが、わたしを大切に想う気持ち、守りたいという気持ちが二人をつないでいる。

秘密警察の苦悩、R氏の抑圧感、おじいさんのジレンマ、わたしの恐怖・・・ 様々な想いを抱えた島は、「消滅」がさらに増えていく。 島は、いつまでも明けない冬が続いていた――――――